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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
―――雨は止みそうにないので……


少しクセのあるアルの声とは違う。五歳年上の兄に似た、爽やかな落ち着いた声だった。
脳裏に浮かぶ彼の温かい笑顔に、ぽっと灯りがともったように心の奥が暖かくなる。


また会いたい。


そう思ってしまった自分に困惑して、アルの寝顔を見上げた。

少しだけ体を離し、二人の間に出来た僅かな隙間に手を入れる。
パジャマ越しに感じる鼓動に安らぎを求めながら、真雪は恐怖と孤独に堪えた。


―――返すのは、来週でも結構です。


明日でも明後日でもなく……

そのことに気づいて、胸がざわめいていく。

「アル…?」

呼びかけても、返ってくるのは静かな寝息だけ。

「ねぇ…、起きてよ」

彼は、真雪が週に一回だけ図書館に通っているのを知っている。
知っているから、傘を貸してくれたのだ。

その意味を考えるのが、怖い。

「ねえってば……」

不安を掻き消してもらいたくて、けれど起こしてしまわないように、真雪は何度もアルに話しかけた。





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