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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
遠くから聞こえてくる話し声や誰かの咳、紙を捲る掠れた音、傍らから聞こえてくるキーボードを叩く音……、
それらをBGMに、川端慎一郎は黙々と本の修復にあたっていた。
書庫とカウンターの間をひたすら走り続けていた午前中と打って変わって、午後はデスクに貼りついて似たような作業ばかりを繰り返す。
体の筋肉が強張るたびに伸びをして時計を見上げるけれど、時間の感覚はほとんどなかった。
今、手にしている本が何冊目なのかも分からない。
「あっ……」
突然横から奪われて顔を上げると、先輩司書の黒木透子が取り上げたばかりの本をペラペラと捲っていた。
何を考えているのか分からない彼女の無表情な顔つきと、絵本のキャラクターがプリントされた可愛らしいエプロンが、いつ見ても全く似合っていない。
「川端クンは、上手だな」
……誉められたはずなのに、謗(ソシ)られたような気がするのは何故だろう。
「すみません…」
「何故、謝る」
透子は不思議そうに慎一郎を見やる。
それらをBGMに、川端慎一郎は黙々と本の修復にあたっていた。
書庫とカウンターの間をひたすら走り続けていた午前中と打って変わって、午後はデスクに貼りついて似たような作業ばかりを繰り返す。
体の筋肉が強張るたびに伸びをして時計を見上げるけれど、時間の感覚はほとんどなかった。
今、手にしている本が何冊目なのかも分からない。
「あっ……」
突然横から奪われて顔を上げると、先輩司書の黒木透子が取り上げたばかりの本をペラペラと捲っていた。
何を考えているのか分からない彼女の無表情な顔つきと、絵本のキャラクターがプリントされた可愛らしいエプロンが、いつ見ても全く似合っていない。
「川端クンは、上手だな」
……誉められたはずなのに、謗(ソシ)られたような気がするのは何故だろう。
「すみません…」
「何故、謝る」
透子は不思議そうに慎一郎を見やる。