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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
本を棚に戻しながらも視線はチラチラとエントランスのあたりへと泳いでいく。

昨日の今日で、彼女が来るはずがない。
そう分かっていても、もしかしたら…と甘い期待がふわふわと湧きあがる。

すでにカウンターに預けてあるのかも。

その可能性に、今度はずしりと気持ちが沈んでいく。本当に傘が返ってきているかどうかも分からないのに、知らず知らずのうちに溜め息がこぼれる。


まるで、中学生の淡い初恋のようだった。
強烈な想いなどまだ知らない、手探りばかりの拙い想い。

けれどこれは、恋でもなんでもない。

毎週木曜日の夕方になると自然科学の棚の前に現れて、いつも同じ本を手に取る。
懐かしそうに、愛おしそうに、一ページ一ページ丁寧に捲っていく姿が、まるで泣いているように見えて気になっているだけのこと。

だから、辛そうに雨を眺める彼女に声をかけずにはいられなかった。

深い意味などない。


そのはずなのに、何故か心は別のことを期待していた。
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