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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
最後の一冊を棚に収めると、慎一郎は一種の苛立たしさを誤魔化すように息をひとつだけ吐き出した。
閉館までまだしばらく時間がある。美天の追撃と館長の笑顔をいなしながら修復作業を続けるのは大変そうだが、戻らないわけにはいかない。
もう一度だけ溜め息をついてから、踵を返した。
「あ……、」
静けさの漂う広い空間に、柔らかい声がか細く響く。
顔を向けると、そこに彼女が立っていた。
「あ、」
真似をするように慎一郎も呟いた。
どちらからともなく会釈して、うろたえ気味にまた頭を下げる。
「傘、ありがとうございました。お会いできると思っていなかったので、さっき…カウンターの方に預けたばかりで……」
「いや、その……」
出会い頭でトラックにでも跳ね飛ばされたような衝撃に、頭が真っ白になっていた。
もしかしたら今日にでももう一度会えるのではないかと期待していたくせに、本当に会えるとは露ほども思っていなかったのだ。
閉館までまだしばらく時間がある。美天の追撃と館長の笑顔をいなしながら修復作業を続けるのは大変そうだが、戻らないわけにはいかない。
もう一度だけ溜め息をついてから、踵を返した。
「あ……、」
静けさの漂う広い空間に、柔らかい声がか細く響く。
顔を向けると、そこに彼女が立っていた。
「あ、」
真似をするように慎一郎も呟いた。
どちらからともなく会釈して、うろたえ気味にまた頭を下げる。
「傘、ありがとうございました。お会いできると思っていなかったので、さっき…カウンターの方に預けたばかりで……」
「いや、その……」
出会い頭でトラックにでも跳ね飛ばされたような衝撃に、頭が真っ白になっていた。
もしかしたら今日にでももう一度会えるのではないかと期待していたくせに、本当に会えるとは露ほども思っていなかったのだ。