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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
視線が絡むと、彼女は大きな瞳を人懐っこそうに細めて微笑んだ。
深く澄んだ漆黒の目と瑞々しい唇に、慎ましやかな色気が滲み出ていてドキリとする。

「あ、あの…」

僅かに上擦った自分の声を恥じながら、慎一郎は小さく咳払いをした。

「今日は、借りて行かれるんですか?」

言ってすぐに、心の中で舌打ちをする。

プライバシーを探るなど、やってはいけないことではないか。
利用者の守秘義務はどこに消えてしまったのだろう。

慎一郎の後悔など気づく様子もなく、彼女は不安そうに目を伏せて手に持っている数冊の料理本を見下ろした。

「そのつもりなんですけど、どれが良いのか分からなくて…。栄養満点で、スタミナもついて、簡単に作れて、立派に見える料理ってどれに載ってますか?」

…りっぱ?

ちらりと彼女が抱えている料理本のタイトルを確かめると、どれも“初めて”“簡単”と目立つように書いてあった。
それから、一冊だけ“男が食べたい”の文字も。
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