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ホンモノはいらない
第4章 深夜のレッスン
「ホントに…いいんですか?」

食材が入った買い物袋を持ち直して、慎一郎はおずおずと尋ねた。

古めかしい木造モルタル塗りの二階建てアパートは、赤錆びた鉄製の階段を一段踏むたびに甲高く重い音が鳴り響く。
静寂を打ち破るそれが下心に杭を打つ音にも聞えて、自然と脈が速くなっていた。

「うん…、公民館の鍋は持って帰れないもの」

警戒心のない真雪ののんびりとした口調が、慎一郎の良心に突き刺さる。

一番奥のドアに辿り着くと、真雪は街灯の僅かな明かりを頼りに鍵穴を探した。ほんの少しだけ身を屈めて鍵を差し込む姿に一瞬見惚れ、頭をもたげる邪な気持ちを振り払うように首を横に振る。


公民館へ行こうとした慎一郎を止めて、部屋まで連れてきたのは真雪。
慎一郎がさせているわけではない。

それでもやはり、後ろめたい。

「…他の男を部屋に入れて、彼氏さんが良く思わないんじゃないかな」

カチャリと小さく音をたてたドアを見つめ、慎一郎は首を竦める。
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