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ホンモノはいらない
第4章 深夜のレッスン
小さな台所の横に肩身狭く作られた玄関に足を踏み入れて、慎一郎は居心地悪そうにまた室内を見渡す。
必要最低限のものしかない部屋は寒々としていて素っ気ない。何年も人が住んでいないようにも見えた。

あまり物を置きたがらない、飾り立てるのが好きではない人もいる。住処や物に頓着しない人もいる。
しかしそれらとは、何かが違う。胸が締めつけられるようなやるせなさと虚しさを感じる部屋だった。

真雪はストーブをつけると、細く白い手を擦り合わせながら傍まで戻ってきた。

「そのスリッパ、使って下さい」

きちんと揃えてあるスリッパを指差して慎一郎から買い物袋を受け取る真雪は、知り合ってからの短い時間の中で何度も見せてくれた柔らかな笑顔を浮かべている。


傷ついてきた人なんだ。
…彼女も。


不意に悟り、今の今まで気づかなかったことを不思議にさえ思う。

真雪のテリトリーに足を踏み入れることを、慎一郎は重く意識した。
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