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ホンモノはいらない
第4章 深夜のレッスン
その視線が、自分の足ではなくスリッパに向けられたものだと気づいた時にはもう、アルは奥の部屋へ移動して服を脱ぎ始めていた。

「ぁ…っ」
「味つけはどうするんですか?」

「あ、えっと…、鶏がらを……」

彼のスリッパを履いてしまっていることを詫びようとした慎一郎は、うろたえながら鍋に向き直り、またアルを見やる。

「風呂入ってくる」

アルは慎一郎達を見ることなく、台所横の狭い洗面所へと入っていく。すぐにドアが閉まる音と雨が降っているようなばらついた音が聞こえてきた。

「味見、お願いします」

「あ、はい…。あの……」

混乱した頭で必死になって真雪とアルの関係性を考える。

仮に兄弟なら「アル」とだけ紹介した真雪に違和感がある。
かと言って、恋人とも思えない。もし二人がそういう関係なら、深く追求しないまま暢気にシャワーを浴びるはずがない。
家族ではない。おそらく恋人でもない。それでも二人は共に暮らしているのだ。
この殺風景な部屋で。





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