この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホンモノはいらない
第5章 大切な想い
「心ここにあらず、だな」
帰り支度をしていると、何の前触れもなく背後で透子の低い声がした。慎一郎はびくりと小さく跳ねて振り返る。
「美天が睨んだとーり、恋患いなんですってば。だって慎ちゃん、ずっとため息吐いてるんだもん」
美天が駆け寄って、何故か透子を抱き締める。透子は一瞬狼狽えて美天を見やり、すぐに慎一郎へ顔を向けた。
「そうなのか?」
「違いますよ」
…本当に?
後ろめたく透子と美天から視線を逸らし、コートを羽織る。適当に挨拶して慎一郎は逃げるように図書館を後にした。
恋患い。
その言葉を心の中で反芻する。
まさか。
そんなはずはない。
真雪にはアルがいる。不毛な恋など慎一郎はしたくなかった。
……忘れてしまおう。
彼女が図書館にやってくるたびに同じ本を読んでいることも、もつ鍋のことも、料理を教えることも、笑顔も、可愛らしい声も、全部……
忘れてしまえ。
帰り支度をしていると、何の前触れもなく背後で透子の低い声がした。慎一郎はびくりと小さく跳ねて振り返る。
「美天が睨んだとーり、恋患いなんですってば。だって慎ちゃん、ずっとため息吐いてるんだもん」
美天が駆け寄って、何故か透子を抱き締める。透子は一瞬狼狽えて美天を見やり、すぐに慎一郎へ顔を向けた。
「そうなのか?」
「違いますよ」
…本当に?
後ろめたく透子と美天から視線を逸らし、コートを羽織る。適当に挨拶して慎一郎は逃げるように図書館を後にした。
恋患い。
その言葉を心の中で反芻する。
まさか。
そんなはずはない。
真雪にはアルがいる。不毛な恋など慎一郎はしたくなかった。
……忘れてしまおう。
彼女が図書館にやってくるたびに同じ本を読んでいることも、もつ鍋のことも、料理を教えることも、笑顔も、可愛らしい声も、全部……
忘れてしまえ。