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ホンモノはいらない
第5章 大切な想い
……忘れて、しまえ。

強く、固く、誓うように自分に言い聞かせる。


それでも心は裏切り、引き寄せられるように真雪とアルが住むアパートへと歩いていた。
最後の角を曲がる時になってそのことに気づき、足を止める。

しばらく角を見つめてから大きく息を吐き捨て、慎一郎は来た道を戻ろうと踵を返した。

「っぅ、わ…っ、」

顔を上げた、その先に退屈そうに慎一郎を見やるアルがいて、慎一郎は思わず声をあげる。慌てて手のひらで口を塞ぐが、もう遅い。

アルは街灯の下あたりで佇んだまま動こうとしない。

「…こん…ばんは、」

恐る恐る声をかける慎一郎にアルは僅かに頷いて、ゆったりと近づいてくる。

「……あの、」

戸惑う慎一郎の前まで来ると、アルは少し上目遣いに慎一郎を見据えた。

「…なんか、忘れ物?」

「……えっ?いや、えっと…っ、」

少しだけ眉を上げるアルの鋭い視線に、慎一郎はますます動揺するしかない。
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