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ホンモノはいらない
第5章 大切な想い
少しクセのある話し声に気づいて、真雪は階段の最後の一段を残して立ち止まった。


……来なくていいって言ってるのに。


溜め息と共に笑みがこぼれる。

何度断ってもアルは聞く耳を持ってくれない。真雪の帰りが遅くなる時は必ずおんぼろの車で迎えに来てくれるのだ。
嬉しいけれど、保護者気取りのアルに少し困ってもいた。

カウンターを覗くように見やり、グラスを傾けようとしているアルを確かめる。
その次の瞬間、


慎一郎の背中が視界に飛び込んできた。


な、んで……


心臓が高鳴り息苦しくなっていく。
姿を見れて嬉しい気持ちと会いたくない気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって、真雪はどうやって店から逃げ出すべきか真剣に悩んだ。

ドアへ向かうためにはカウンターの前を通らなければならない。裏口を使うと言う手もあるけれど、それもカウンターの中に入らなければ無理だった。

「真雪ちゃん?何、突っ立てるの?」

常連客の和田が振り返り、つられるようにアルと慎一郎も真雪へと視線を泳がせる。真雪は曖昧に頷くと、恨めしそうにアルを睨んだ。
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