この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホンモノはいらない
第5章 大切な想い
「今日は、やらないの?」
観念して階段を降り切った真雪に、和田がまた声をかけてくる。
「久しぶりに弾いてよ」
細目にチタンフレームのメガネ。十年以上前に出会った時から変わっていない人の良さそうな笑顔で、和田は言ってほしくないセリフを言う。
やっぱり、二階の窓から逃げれば良かった。
真雪の後悔など気づく様子もなく、和田は嬉しそうにショパンを口ずさみ始めた。
しっとりと穏やかに降り注ぐ"雨だれのプレリュード"も、酔っ払いにかかると雨音が楽しそうにスキップしているみたいに聞こえる。
それでも、真雪の心も一緒になって弾むことはない。
真雪は店の隅に肩身狭く置いてあるピアノへと視線を泳がせてそっと息を止めた。そうしなければ泣いてしまいそうだった。
ピアノなんて……
「歌えば?…伴奏するよ」
助け船のつもりなのか、アルが口を挟んでくる。
けれど……
「伴奏って、」
「弾けるの?」
呆れる真雪を遮って、和田が興味深そうに尋ねる。アルは僅かに眉をつり上げて頷いた。
観念して階段を降り切った真雪に、和田がまた声をかけてくる。
「久しぶりに弾いてよ」
細目にチタンフレームのメガネ。十年以上前に出会った時から変わっていない人の良さそうな笑顔で、和田は言ってほしくないセリフを言う。
やっぱり、二階の窓から逃げれば良かった。
真雪の後悔など気づく様子もなく、和田は嬉しそうにショパンを口ずさみ始めた。
しっとりと穏やかに降り注ぐ"雨だれのプレリュード"も、酔っ払いにかかると雨音が楽しそうにスキップしているみたいに聞こえる。
それでも、真雪の心も一緒になって弾むことはない。
真雪は店の隅に肩身狭く置いてあるピアノへと視線を泳がせてそっと息を止めた。そうしなければ泣いてしまいそうだった。
ピアノなんて……
「歌えば?…伴奏するよ」
助け船のつもりなのか、アルが口を挟んでくる。
けれど……
「伴奏って、」
「弾けるの?」
呆れる真雪を遮って、和田が興味深そうに尋ねる。アルは僅かに眉をつり上げて頷いた。