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第3章 始まりの雨

自動ドアが閉まり、雨音が遠ざかる。
それでもまだ、耳鳴りのようにはっきりと聞こえてくる。


窓ガラスを流れる雨が外の灯りに照らされて、ねっとりと濡れた床に歪んだ影を落としている。

バタバタ…バタバタバタ……ッ

雨音は止まない。
立ちすくむことしか出来ない真雪を責めるように、ただひたすらに窓を叩き続けている。


「…あの、」

不意に低く聞き心地の良い声がして、真雪は小さく息を呑み込んで振り返った。

いきなり夢から現実へと引き戻されたかのように、軽い眩暈が起こり焦点が揺らぐ。
それでも何とか平静を装ったけれど、努力は報われなかったらしい。声をかけてきたその人は、申し訳なさそうに微笑んでいる。

「驚かせて、すみません。…もし良ければ使ってください」

そう言って彼は、使い込んでいるのか微かに変色している黒い傘を差し出してきた。