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ホンモノはいらない
第3章 始まりの雨
突然の申し出に戸惑い、真雪はその傘をちらりと見やってから、彼の人の良さそうな笑顔を観察した。

体の線が細く、物静かな顔立ちの人だった。
けれど、弱々しい印象はなく、凛と伸びた背筋からも自信の強さが窺える。

それに、この図書館のユニフォームであるオレンジのエプロンがとても良く似合っている。大きくプリントされた可愛らしい犬のキャラクターも含めて、全てが彼を魅力的に見せていた。

「もうすぐ閉館ですが、雨は止みそうにないので…使って下さい」

彼は自動ドアの向こうへと首を巡らせて、すぐに真雪へ向き直る。

「でも……、」

「ロッカーに予備があるので、僕は大丈夫です」

強引に押しつけられる形で受け取って、真雪は慌てて小さく頭を下げる。

「返すのは、来週でも結構です。もし僕に会えなかったら、カウンターに預けてください」

「…ありがとうございます」

光が射すような温かい笑顔につられて、真雪もそっと微笑んだ。
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