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揺れる心
第6章 秘密
体調と心が安定するまで、
1人にさせるのは心配だけど、
仕事で不在の時間も多いから…


と、海斗さんが物凄く心配するので、
暫く大先生の処に住まわせていただくことになった。

海斗さんが仕事で不在でも、
週に5日は大先生もいらっしゃるし、
お手伝いも居るから、
1人になることはない。


海斗さんは父の大学の医局に夏休み明けから入ることになり、
そちらの準備も平行しながら、
病院勤務をするので、
少し忙しくなりそうだった。


私は会社の総務の方と相談して8月末で退職することにした。
使っていない有給を消化するので、実質7月で出社もなくなるし、
新婚旅行から戻った部下にそのまま仕事を引き継げそうだった。


自分の部屋から最低限の着替えと、
作りかけの刺繍を少し持って来るだけだったので、
海斗さんの車で運んで同居生活はスタートした。


お手伝いさんは海斗さんが産まれる前からずっと住み込みしていまそうで、
元々、看護婦さんもしていたとのことで、
物凄く頼りになる方だったけど、
お料理は苦手だと笑っていたので、
一緒にキッチンに立つことが多くて、
あれこれお話しもするようになった。


大先生とも毎日、お食事やお茶をご一緒して、
海斗さんより長い時間を過ごす日もあった。

穏やかでお優しい人柄に触れ、
海斗さんが優しくて素直に育っていることが頷けた。


亡くなった奥様や、
海斗さんのお母様のお話を伺うこともあった。


私が私室にと使わせて頂いているお部屋は、
若い頃の百合子さんが使っていたそうで、
刺繍やキルトの本や、アンティークとも言えるフランス製のボタンなどがそのまま残っていた。

本は殆どがフランスやアメリカのもので、
大先生に許可を頂いて、
時々、のんびり読ませて頂いたりした。


誰も読まなかった洋書の中に、
少し古ぼけた便箋が挟まれていた。

刺繍のやり方や翻訳のメモかしらと思って何気なく手にしてしまった。
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