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揺れる心
第7章 安藤家の崩壊と再生
土曜日の夕食後、
のんびりしている時に、
ふと、海斗さんがお兄様のことを口にした。


「兄貴はどうだった?」

「坊主頭でびっくりしました。
なんか…雰囲気も違ってて…。
でも、お元気そうでしたよ」

「そうなんだ。
ちょっと羨ましいな。
だってさ、目の前の患者さんと向き合って、
ひたすら助け続けていけるんだよね。
まあ、病院の仕事だってそうなんだけどさ」

「私はそれが辛くて…。
無理でした…」

「えっ?」

「私…医学部だったんです。
東大は無理だったけど」

「えっ?そうなんだ。
文学部とかと思ってた。
学校とか学部とか、全然気にしてなかった」と驚いた顔をする。

お父様と大先生も驚いている。


「一人娘だしと思って、
大学までは父と同じ道に進みましたけど…。
実習で毎回、立ってられなくて…。
慣れるからって言われたけど、全然ダメだったんです。
国家試験には受かってますけど、
研修医も無理で…。
結婚しちゃったんです」

「知らなかったな」

「手術で血を見るのも怖かったけど、
それ以上に自分の見立てが間違えたらとか、
私のせいで患者様が死んでしまったらとか。
色々考えたら怖くて怖くて…。
論文のお手伝いとか、翻訳とかなら出来るかなと思ったけど、
むいてないことを無理してしなくても良いと父が言ってくれて。
この話、あんまりしてなくて…
大学のこと訊かれても三田の大学と言うだけで、
医学部だなんて一言も言わないようにしてたんです」

「真理子さんには驚かされることばかりだよ」と、
3人は頷きあっていた。


「しかし、陸也も、思い切ったことをしたな。
でも、やりたいことなんだろう。
離れていても家族だし、
離れているからこそ、家族だって感じるな」と、
お父様は呟いた。




こうして、一度気持ちもバラバラになったかに見えた安藤家は、
住まう場所は離れてしまったけど、
気持ち的には一つの方向に纏まっていくような気がした。



私は、別れ際に陸也さんとキスを交わしてしまったけど、
そのことはさすがに海斗さんには言えなかった。

でも、あのキスは…
わだかまりがないことをお伝えしたい私の気持ちと、
許して欲しいと願う陸也さんの想いからのものだったと思っていた。

そして、危険な地域に行ってしまう陸也さんが、
いつか無事に帰国出来ますようにと願っていた。
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