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爛れる月面
第3章 広がる沙漠

或る人気女優が結婚する。お相手は若手の三世代議士。「若手」といっても、あくまでも政界における若手であるから、歳はずいぶんと離れている。朝の情報番組では、どのチャンネルもその話題で持ちきりだった。かつて雑誌の対談で知り合い、その後も愛を育んでのゴールイン。大して名は知られていなかったのに、突然「政界のプリンス」などという冠をいただいた新郎のせいだろうか、今時珍しく、盛大な式と披露宴も行うという。既に芸能マスコミは、結婚を機に女優業は引退するという新婦が纏う、ウエディングドレスのブランドまでをも突き止めていた。
「そういえば、長谷さんはどこで式やるんですか?」
政治には全く興味がないくせに、「あの人に政治家の妻が務まるんでしょうかね、絶対別れそう」と勝手なことを言っていた紗友美が、ふと思い至ったらしく問うてきた。
「んー? 別に式はしなくてもいいかな、って思ってる」
「えーっ!!」
「なんで立つの!?」
登録ボタンを押す前に、入力し終えた画面と手元の伝票を一項目ずつ確認していた紅美子が答えると、大声で椅子を蹴った紗友美は、信じられない、という表情でモニタ越しに眺めてきた。
「ドレス、着ないんですか?」
「いや、式しないんだから、着る機会なんかないでしょ」
すると紗友美はデスクを巡ってそばまでやってきて、伝票を持っていた手を包むように握った。
「ちょっと、邪魔──」
「長谷さん。一生に一度ですよ?」
「一生に一度じゃない人も多いよ?」
「そんなことありません!」紗友美は薬指のリングを四本指で軽く撫で、「徹さんがいるかぎり、長谷さんに二度目はありません!」
隣から向けてくる大真面目な顔へ、
「なんで光本さんが決めるの。わかんないじゃん、何があるかなんて」
うかつにそう言うと、まだ少し心臓に刺痛が走ったが、幸い紗友美には気づかれず、

