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爛れる月面
第4章 月は自ら光らない
「意外。あんた、そーいう弱っちいとこあるんだ」
「そうだな。俺も知らなかったよ」
「じゃ、安心させたげる」
 風のせいでやたら早く燃え、味のしなかったタバコを地面に捨て、踏みにじった。「あんたの罠? ……にかかって、アイツに犯されたときにさ、徹からもらった指輪を取られたの。次の日取り返しに行ったら、それを理由にまた抱かれた。ま、ここまでは、ひょっとしたらギリギリあんたのせいかな……いや違うか、アイツのせいだ。あんたは悪くない」

 肩をブルッと震わせオータムコートの袷を閉じ合わせた紅美子は、顔を直撃してくる透明な空気を見ようとするかのように目を細めた。

「……でもね、次の日もアイツに会ったの。次の日も、んで、その次も。三日連続。それってさ、私が自分で行ったんだよね。お酒飲まされたわけじゃない。指輪も返してもらってた。でもさ、私、自分で行ったんだ」
 紅美子はまだ高架下を出たところにいる早田を向き、「ほらね、あんたは悪くないでしょ? これ、もっと悪いヤツ他に居るって」
「だから、もうよせよ。マネージャに関わるな」
「だってしかたないじゃん!」

 紅美子は精一杯の笑顔で風の中へ大声を放ち、

「アイツさ、あの歳になのに、見た目? かなりイケてるでしょ。それに、お金も持ってる。……なんつったってさぁ、エッチがね、すっごいうまいの。愛人生活、絶賛満喫中ってやつ?」

 高速道路の騒音の助けを借りて露悪をしてから早田を睨み、

「あんたさ、自分が悪いって思ってるなら何とかしてよ。あんたのせいでこんなドハマリしてんだけど」
「お前こんなこと続けて、笹倉どうするつもりなんだよ」
「徹? ……さぁ? バレたらどうなるか想像つかない。でも、きっとバレないって最近思えてきた。半年以上続いてんだよ、この状況」
「笹倉、お前を信じ切ってるからだよ」
「そうね。中学と高校一緒にいただけのあんたからそんな風に言われるくらいだから、そうなんだと思う。……でも不思議。私がこんなこと始めたらさ、今まで一番、徹とうまくいってる。ラブラブすぎて自分でもびっくりしちゃうよ」
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