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爛れる月面
第1章 違う空を見ている

マジか、お前──、舌打ちまでも出て、
「私行けないよ?」
「えっ! 何でですか!」
どうやらコイツもわかっとらんな。逐一説明するのも面倒だし、井上のほうをあえて向きながら、
「愛する婚約者がいるもん」
とだけ言った。
紗友美は、しばし沈黙した。
「……長谷さんは鬼ですか?」
「は?」
口を開いたと思ったらのひどい言われように、様々に頭を巡る中から紗友美を改心させるに最も有効な言葉を探していると、
「私は彼氏と別れて寂しいんです。三週間連続で一人で土日を過ごしてきてるんです。早田さんは、そんな私を可哀そうに思ってくれた神様からのプレゼントなんです。……つまりですね、オトコに飢えてるんですっ!」
どうやら、もうそばに早田はいないらしい。しかしこっちにはまだ井上がいる。私だって徹に会ったのは三週間ぶりだったわ──そう言い返してやりかったが、さすがにそこまであけすけになるわけにはいかず、
「あのね、光本さん……」
「ううー……、長谷さあぁん。お願いです。お願いですから来てくださいよぉ……」
「う……」
一転、紗友美がかよわげな甘え声で縋りついてきた。あのルックスにこの声は反則だ。
(かといって……)
これ以上、井上みたいな男の相手をするのはごめんだった。何とか、早田と紗友美の二人だけで、かつ、井上と自分は別行動できる策はないものか……いや、そんなもん思いつかんわ。
「今日行けるなら、明日からも絶対、仕事頑張りますから!」
……言ったな?
録音モードにしてもう一度言わせたいほど、魅力的な宣言だった。
伝票数が多い時期である。紗友美に付き合わされて、連日残業するくらいなら……ぐらぐらと揺るがずにはいられない。
「……わかった。とにかく、戻るから」
「やったっ! 早く戻ってきてくださいねっ!」
戻ると言っただけなのに、喜んだ紗友美は一方的に電話を切った。
「合意したかい?」
指先で口髭をトントン叩き、井上が確認をしてくる。
「仕方ないですが……、行くことになったようです。……仕方なく、です」
「私行けないよ?」
「えっ! 何でですか!」
どうやらコイツもわかっとらんな。逐一説明するのも面倒だし、井上のほうをあえて向きながら、
「愛する婚約者がいるもん」
とだけ言った。
紗友美は、しばし沈黙した。
「……長谷さんは鬼ですか?」
「は?」
口を開いたと思ったらのひどい言われように、様々に頭を巡る中から紗友美を改心させるに最も有効な言葉を探していると、
「私は彼氏と別れて寂しいんです。三週間連続で一人で土日を過ごしてきてるんです。早田さんは、そんな私を可哀そうに思ってくれた神様からのプレゼントなんです。……つまりですね、オトコに飢えてるんですっ!」
どうやら、もうそばに早田はいないらしい。しかしこっちにはまだ井上がいる。私だって徹に会ったのは三週間ぶりだったわ──そう言い返してやりかったが、さすがにそこまであけすけになるわけにはいかず、
「あのね、光本さん……」
「ううー……、長谷さあぁん。お願いです。お願いですから来てくださいよぉ……」
「う……」
一転、紗友美がかよわげな甘え声で縋りついてきた。あのルックスにこの声は反則だ。
(かといって……)
これ以上、井上みたいな男の相手をするのはごめんだった。何とか、早田と紗友美の二人だけで、かつ、井上と自分は別行動できる策はないものか……いや、そんなもん思いつかんわ。
「今日行けるなら、明日からも絶対、仕事頑張りますから!」
……言ったな?
録音モードにしてもう一度言わせたいほど、魅力的な宣言だった。
伝票数が多い時期である。紗友美に付き合わされて、連日残業するくらいなら……ぐらぐらと揺るがずにはいられない。
「……わかった。とにかく、戻るから」
「やったっ! 早く戻ってきてくださいねっ!」
戻ると言っただけなのに、喜んだ紗友美は一方的に電話を切った。
「合意したかい?」
指先で口髭をトントン叩き、井上が確認をしてくる。
「仕方ないですが……、行くことになったようです。……仕方なく、です」

