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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
「するよ。するに決まってんじゃん」
「でも本当に、俺なんかで……」
「もしかして嫌になった? こんなさ、すぐ怒るし、ワガママだし、たまに言ってることめちゃくちゃだし、やってることも……っ!」そこで、喉を詰まらせたが、「……もう、こんな扱いづらい女、やっぱ無理だわ、ってなったなら言ってよっ! なんだよっ、早いとかなんか、わかるわけないじゃんっ!」そしてまた、詰まり、「と……徹しか……、知らない、のに……」

 不味い、と思っても、口を衝いていた。ダメだ、と思っているのに、涙が溢れ出た。

「ちがうよ。俺はクミちゃんじゃなきゃ、絶対にイヤだ。十年前に、ここで告白した時から、ずっと」
「じゃ、それでいいじゃんっ。なんでいまさら訊くんだよっ」
「ここでクミちゃんが『いいよ』って言ってくれた時は、嬉しすぎて、舞い上がっちゃって……、聞きそびれたんだ。クミちゃんは、なんで俺と付き合ってくれるのか、訊かなかった」
「はぁ? どんだけ男に告白されてたと思ってんの。徹が、やっと言ってくれたからじゃん。そうに決まってんじゃん! と、徹、しか……、う……もうやだ……」

 自分でも、ここまで取り乱すとは思ってもみなかった。「してくれるの」と訊かれても、「してあげる」と、軽妙にひとこと答えてやればよかったのに、パニックになって次から次へと罵詈が流れ出た。むろん、大半は幼馴染の恋人に向けられたものではなく、自分自身に対してのものだった。つい何分か前までは、目を覆いたくなるほどのバカップルぶりで、それがどうしたと愛欲に浸っていたのに、何故こんなことになっているのかわけがわからない──わけではなかった。誰のせいかは、明らかだった。
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