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爛れる月面
第5章 つきやあらぬ
「んっ、……くっ、……だ、だめ……だ……」
「あ……」

 だが、数度目押し込もうとしたところで、徹は歯を食いしばらせた。やがて力尽き、肉幹を激しく脈打たせる。最も彼が敏感になり、快楽を感じ取ってくれる時だから、紅美子はまだ余幅のあった肉幹へ腰を進め、すべてを取り込んで彼を抱きしめた。

 脈動が収まるまで、充分に待つ。

「……徹」

 だが紅美子が誘っても、唇は降りて来なかった。射精を終えたから当然ではあるものの、身の中の肉茎も張りを失いつつある。外れてしまわないように根元を抑え、体を上方へと動かそうとすると、徹も腰を引いていった。股間からコンドームを外してやっているあいだ、畳をじっと見つめている。

「キス、しなくていいの?」
「クミちゃん……」
「ん?」
「……俺、早いかな?」
 
 目を合わせずに、徹は言った。

「え……」
「出しちゃうの、早すぎ、かな」

 紅美子は結び終えたコンドームを傍らに投げ、徹を下から覗き込んだ。

「おかしいと思った。脚にキスしてくるし、なんかイジワルするし。エロ動画、観たでしょ?」
「観てない……」
「どんなオンナのやつだった? 私より興奮したとか言ったら、マジギレする」
「観てないったら」
「じゃ、なんでそんなこと言うのっ」

 声が裏返り、上ずっていた。心臓が痛い。まだ着ているタートルネックの中で、背に鳥肌が立っている。

「……観たなら観たで、素直に認めて。目の前で消してくれたら、まだ一回目だから許したげる」
「クミちゃんは……、本当に、俺と結婚してくれるの?」
「っ……!」

 震慄を収めようとしているのに、より、グロテスクな問いを向けられた。背を丸めている徹に、脳からすべての血を抜かれていく。徹の肉茎は、薄皮に阻まれて、自分だけのヌメりを纏ってしょげていた。
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