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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 紗友美が、意識しまくりだろう上目遣いで、同じ思いを口にしてくれる。

「大丈夫。そんな畏まったとこじゃないし。たぶん、個室だと思うよ。……ですよね? マネージャ」

 エレベータ前で井上は首だけで振り返り、

「ああ。……『マネージャ』は止そう。もう仕事は終ったんだ」
「ほらね。良かったね、紗友美ちゃん。それに別に変なカッコじゃない、とても似合っててカワイイよ」

 タクシーの中で話題を途切れさせなかった早田は、もはやファーストネームにプラス「ちゃん」付けだった。中学の時そのままだな、と眺めながらエレベータで昇った先に現れた店は、早田の言った通り、ワイン・ダイニングと銘打ってはあるが格式張ってはおらず、一階エントランスに比べると全く緊張させるような雰囲気ではなかった。名乗っていないのに、井上を見つけたタキシードの男が一礼をして、個室へと案内していく。男女向い合って座り、食事もワインも、オーダーは全て井上に任せた。

「この店はね、慣習に縛られず、ただ料理に合うワインを、っていうコンセプトでやってるんだ。少しずつだが、色々なワインが楽しめる」

 こんな店に来るのは初めてだ。一品目からして食事は美味しいし、ソムリエの勧めてくるワインに間違いはなく、実に飲みやすい。

 だが、紅美子の機嫌はよくなかった。

 タクシーの中だけならともかく、この店に入ってもずっと、早田は紅美子から話題を移そうとしなかった。あまり話してこなかった徹のことを紗友美も聞きたがり、知っていることは何でも話してしまう──

「……にっじゅうねんっ!?」

 そこそこ皿も進んだころ、猫皮を何枚も剥がれ落としてしまった紗友美は、個室に声を響かせた。

「だねー」ワイングラスを片手に早田が頷き、「幼馴染ってやつ?」
「中学からじゃなかったんだ……初めて会ったのが五歳……家が隣で…… 」
 紗友美は紅美子の方をまじまじと見て、「めっちゃ萌えますね」
「なんだそれ」

 顔を顰めてワインを開ける。ネタにされて不機嫌だったということもあるが、料理のたびに変えられると、少し残っているのももったいなく、貧乏性を自嘲しながらも飲み干さずにいられない。
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