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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 幹を握った拳が上下し始める。指先で顔の至る所をなぞってやりながら、徹の顔と手元を交互に見つめてやる。

「こんなふうに、してたんだ?」
「う、うん……」
「きもちいい?」
「……うん」
「今、何、想像して、動かしてる?」

 亀頭から撥ねる小音を邪魔しないように、絶えず小声で問いかけていると、

「め、目の前のクミちゃんのことしか、考えられない……」

 ソファの上に折り畳んでいた脚の間が疼いた。衝動的に腰を上げ、正面から膝立ちで徹を跨ぐ。ダークネイビーのニットワンピースが皺を刻んで付け根近くまで捲れるが、裾を引くことなく、背すじを伸ばし、彼の視界を埋めてやった。

「徹、こういうカッコ好きでしょ? わざわざ買ってあげたんだよ、ネットの安物だけど」
「うん……」
「何か言いたそう。イマイチだった?」
「ううん、す、すごくキレイだよ。でも……」
「でも?」
「ぼ……、俺の、ために着てきてくれてうれしい。でも、他の奴にも見られるのは、その……ちょっと嫌だ」

 息笑いをした紅美子は、オフショルダーの襟口に両の手のひらを添え、婉美な隆起を見せつけるようにして、

「そだね。東武の中でもめっちゃ見られたよ、オトコたちに。みーんな見てくんの。オトコってエロいよね、ほんと」
「やめてよ、クミちゃんっ、そんなこと言うの」

 ボレロを羽織って来たのは徹も知っているくせに、幹を握っているのとは逆の手が、くびれに沿ってもどかしげに摩すってくる。勝手に触れてきたのを払うこともできたが、小穴から透明の汁粒が膨らんだので不問に伏し、

「よー、カレシさんよう……いいかげん、私のこと見せびらかすくらいになってよ」
 それどころかワンピースの裾を掴むと、一気に頭の先から脱ぎ捨てた。「……こんなカラダしてる、っていうのは、徹しか知らないんだし」

 シンプルなだけにより蠱惑的にスタイルを際立たせる黒の下着姿で、髪を両手かき上げて後ろに払い、より鋭くした瞳で見据える。熱っぽく見上げてくる視線を肌に浴びると、ぞわぞわと心地よい騒波が体じゅうに立った。
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