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第22章 余韻

「それなら、いいんだけど・・・。」

男はホッとしたのか、それまでと口調を変えて喋り出した。

「残業が長引くって電話したけど君は出ないし、帰るのは中途半端だからホテルに泊まったんだ。でも無事で良かったよ・・・。今日は帰れると思うけど、遅くなるかもしれないから先に寝てていいよ・・・。風邪をこじらすとイケナイからね・・・。」

言い聞かすような口調だった。

男の話にも多少だが嘘が混じっていた。

残業で遅くなったのは本当ではあったが帰れない程ではなく、行き付けの店に飲みにいったのだ。

別に嘘はつく気は無いが、何も本当の事を言って妻に余計な心配をさせる事もない。

だが多少後ろめたさを感じる位の事はしていた。

日本に帰ってからの超多忙な日々と驚異的な通勤地獄に、達彦のストレスは極限に達していたのだ。

だから、同僚に誘われるままに知った日本独特のネオン街の遊びに夢中になるには、そう時間がかかる事はなかった。

一流商社に勤めているから多少の経費は捻出できるし、何より双方の実家が超リッチであるから小遣いには不自由しない。

昨夜も少しのつもりがあっという間に終電を過ぎてしまい、今朝の会議の事を考えて泊まる事にしたのだ。