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あなたが消えない
第1章 憂鬱な日々
「しけたスーパーが近くに1軒かぁ。畑なんかあるんじゃ虫も飛んでくるだろうなぁ」

「もぉ!やめてってば!」

すると、和男は私の肩を強く掴んで言った。

「おまえのせいで俺は会社までの距離が遠くなったんだ。通勤時間も今までの倍はかかる。俺のオーダーメイドの高いスーツに虫でも引っ付けて仕事に行って、みんなの前で恥でもかいてみろ? おまえのせいだからな、いいか、分かったか?」

なんて恐ろしい顔。

「わっ、分かったよ」

直視して私は何度もうなずく。

そうかと思えば、またさっきの元の様子に戻り、小馬鹿にして笑って言う。

「俺、年末まで仕事が忙しいからさ。後の事はおまえ独りでやってよ」

「よっしゃ、任せろ」

「頼むな」

「でもさ、挨拶周りくらいは…」

「それも、おまえ独りでやってよ。って言うか、行かなくても良くないか?近所付き合いの出来ないおまえが、そんな中途半端して自分の首締める事になるかもよ?」

「そっ、そうだね。顔合ったら、挨拶しと く程度でいっか」

何だ…コイツ。

結局、私のせいになってるんだ。

私は手を伸ばし、独り黙々とカーテンを取り付ける。

引っ越す事になってから、和男の私への態度は急に変わった。

誰にだって二面性は有る。

機嫌という感情が有る以上、それは仕方がない。

ただ、和男の態度は急激に恐ろしい部分を見せたかと思えば、数秒後には元に戻るから、話を合わせるのも難しい。

でも、そうなってしまったのは、紛れもなく私のせいかも知れないから、一概に和男を責められない。

気にしたって仕方がない。

これがコイツの本性なのだから。
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