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近くて遠い
第16章 朝食の味
「……なにしてんだ…
目を開ければいいだろう」

「いやっ…だって…」


その前に服着て!!


と心で叫んでいると、急に身体がフワリと浮いた。


「えっ!」


咄嗟の事に思わず目を開けると、光瑠さんの濡れた髪が私の頬に触れるほど顔が近くにあった。


「変なやつだな」


壁に追いやられていることに気付いた私は、もう言葉を発することが出来ないくらい緊張していた。


「顔、紅いぞ。」


「ひゃっ…」


少し濡れた手を額に当てられただけで私は変な声を出してしまった。


「少し熱いが……熱は無さそうだ。」


ポタポタと垂れる水滴…

露になった筋肉のついた逞しい身体…



水も滴るいい男とはこの事だと思った。



「で、何をしに来た。」


フワリと香る石鹸の匂いに私は酔いそうになるのを堪えた。


「あの…」


ダメだ…どうしても身体に目がいっちゃう…!


そんな事に全く気付かない光瑠さんは私の言葉を聞こうと首を傾げてさらに顔を近付ける。



「あっあの!その前に、服を着ていただけますかっ!」


「服……?」


「はいっ」


ようやく声を出した私の様子を見て光瑠さんは何か感付いたようにニヤリとした。


「何故だ…?」


「なっ、何故って…」


意地悪そうに笑う光瑠さんは、ゆっくりと髪をかきあげて私をみた。


この人っ、からかってる!?


慌てる私を楽しそうに見る光瑠さんは、私の唇を親指でゆっくりとなぞった。



「何故、服を着てほしいんだ…?ん…??」


むかつくっ…


「っ……目がっ……目がいっちゃうからっ…」



もう恥ずかしくて死にそう…


光瑠さんは、ゆっくりと私から離れるとクククと喉を鳴らして笑った。


「見たいなら見ればいいじゃないか…」


勝ち誇ったようにニヤリとする光瑠さんを私はきつく睨んだ。


「フッ…おもしろい奴だな。仕方ない、お前が変な気起こさないためにも着替えてやるよ。」


「へっ変な気なんて起こしてません!」


ムキになって答えた私をみると光瑠さんはより笑って、かかっていた白いスーツを手に取り再び扉の向こうに入っていった。






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