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近くて遠い
第19章 運命
10分……

それだけで人は恋に落ちるものだろうか?

光瑠には分からない。


「そんなに気になるなら会えばいい。お前を拒否する女はいないだろう。」


要は光瑠の言葉をきいてとんでもないと、顔の前で手を降った。


「それに、私は肝心の名前を聞き忘れましてね。
それだけじゃない、後で気付いたんですが、自分も名乗ってなかった。」


───バカなことをした


と要は頭を抱えた。



光瑠はその話を聞いてひどくモヤモヤとした。


お互い名前も知らないじゃ…どうすることも出来ない。


唯一、要に残ったのは彼女の表情の記憶。


でも、
視力を失った要に、そんな情報あってないような物。


歯がゆい…


そんなことを思いながら、光瑠はまた罪悪感に苛まれる。



「頭がいっぱいになると、そんな単純な事も抜け落ちるものですね…」


と要が切な気に言った。



この完璧な部下をそれほどまでの気持ちにさせる女がどんな女なのか、光瑠は気になった。



「…どうするんだ、それで。」


「動けるようになってから、出会った場所を歩いてます。私は見えないけど、彼女は私が見えるはずだから…
見かけたら声を掛けてくれるでしょう。」


あまりに一途なその行動に、光瑠は胸を打たれた。

だが、その行動が報われる時が来るのだろうかと、少し悲しい気持ちにもなる。


「久しぶりにお会いしたのに、どうでもいい話をしてしまった。」


要はそう微笑むと、机に手を這わせコップを掴んだ。


「……お前の色恋沙汰は聞いたことがないから、興味がある。」



光瑠がそういうと要は照れたように笑った。


「そういう社長も…。社員が噂してましたよ。社長が柔らかくなったって…」


要はテーブルにそっとコップを置くとまたどこか遠くを見ながらそう言った。



「急に俺に話を振るなっ…」


光瑠は突然自分に話が移って狼狽えた。


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