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近くて遠い
第21章 近くて遠い
「すみません…」
また再び庭で走り回る隼人を見ながら、私は言葉を発した。
「大丈夫ですよ、男の子はあれくらい元気なのがいい。」
要さんが優しく微笑む。
その瞳はとても澄んでいて、本当に像を結んでいないとは信じがたい。
「何だか高級そうなチョコレートまでいただいちゃって…」
私はもっていた小さな箱を見つめて言った。
「高級だなんて、こんなお宅に住んでいる方が何を言いますか。」
フッと要さんが笑う。
その丁寧な口調が少し寂しいような気もした。
「………チョコレートはとても好きなので、嬉しいです。」
本当はたくさん聞きたいことがあった。
私はあの時助けてもらったものです、とか
傘を壊してしまってごめんなさい、とか
………ずっと会いたかったです、とか…
言いたいことも山ほどあるけれど、口に出来ないのは、忘れられているかもしれないことの恐怖があるからだ。
それに……
「やっぱりそうですか。良かった」
考え事をしていると、要さんが呟いた。
やっぱり……?
「あの…やっぱりって…」
「あぁ、昨日お会いしたとき、ほんのりチョコレートの香りがしたので。もしかしたら好きなのかなと…」
ほんのりチョコレートの香り……?
「あっ…」
昨日、確かにお母さんのところでホットチョコレートを飲んだ…
「そんなに匂いしましたか…?」
恥ずかしくなって、小さく俯いて尋ねた。
「視力を失うと他の感覚が鋭くなるんですよ」
視力を失うと…その言葉が胸をひどく締め付ける。
「そういうものですか…?」
「ええ。そういうものです」
また風がふわりと吹いて、私と要さんを包み込む。
トクン…トクン…と静かだけれど力強く心臓が鳴っている。
「おっ…お仕事は…」
しばらくの沈黙に吸い込まれそうになるのを防ごうと言葉を発した。
「…ずっと社長付きの秘書をしてました。実はね、2ヶ月前に事故に遭いまして。それまではしっかり見えていたんですよ」
遠くを眺めながら要さんが語る。
「……聞きました…光瑠さんから。トラックがスリップして衝突したって…」
私の言葉に要さんが小さく頷く。
また再び庭で走り回る隼人を見ながら、私は言葉を発した。
「大丈夫ですよ、男の子はあれくらい元気なのがいい。」
要さんが優しく微笑む。
その瞳はとても澄んでいて、本当に像を結んでいないとは信じがたい。
「何だか高級そうなチョコレートまでいただいちゃって…」
私はもっていた小さな箱を見つめて言った。
「高級だなんて、こんなお宅に住んでいる方が何を言いますか。」
フッと要さんが笑う。
その丁寧な口調が少し寂しいような気もした。
「………チョコレートはとても好きなので、嬉しいです。」
本当はたくさん聞きたいことがあった。
私はあの時助けてもらったものです、とか
傘を壊してしまってごめんなさい、とか
………ずっと会いたかったです、とか…
言いたいことも山ほどあるけれど、口に出来ないのは、忘れられているかもしれないことの恐怖があるからだ。
それに……
「やっぱりそうですか。良かった」
考え事をしていると、要さんが呟いた。
やっぱり……?
「あの…やっぱりって…」
「あぁ、昨日お会いしたとき、ほんのりチョコレートの香りがしたので。もしかしたら好きなのかなと…」
ほんのりチョコレートの香り……?
「あっ…」
昨日、確かにお母さんのところでホットチョコレートを飲んだ…
「そんなに匂いしましたか…?」
恥ずかしくなって、小さく俯いて尋ねた。
「視力を失うと他の感覚が鋭くなるんですよ」
視力を失うと…その言葉が胸をひどく締め付ける。
「そういうものですか…?」
「ええ。そういうものです」
また風がふわりと吹いて、私と要さんを包み込む。
トクン…トクン…と静かだけれど力強く心臓が鳴っている。
「おっ…お仕事は…」
しばらくの沈黙に吸い込まれそうになるのを防ごうと言葉を発した。
「…ずっと社長付きの秘書をしてました。実はね、2ヶ月前に事故に遭いまして。それまではしっかり見えていたんですよ」
遠くを眺めながら要さんが語る。
「……聞きました…光瑠さんから。トラックがスリップして衝突したって…」
私の言葉に要さんが小さく頷く。