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近くて遠い
第21章 近くて遠い
───────…


「びっくりしました。目覚めたら、真っ暗で…」


光のない世界がこんな世界なのかと…そう思った。



「真っ暗…」



真希さんが呟く。


彼女の声はとても優しくて、ずっと聞いていたい──


どこか似ている、



声も…


話し方も…


あの日の少女に…。



「こんなにも視覚に頼っていたのか、と思いましたよ。」



遠くで風が木々を揺らす音がする。


「なんて言っていいのかっ…私には想像出来ませんっ…」



想像出来ないといいながら、彼女は自分の事のように辛そうに言った。




心優しい方なのだ…


あの有川社長が変わったと社員が噂するのも頷ける。


「目を瞑ってみてください。」



要は真希に言った。



「……はい。」



「何が、聞こえますか…?」



二人の間に

爽やかな沈黙が流れる──



「風──
風が吹いてて、それで…どこかで、水が流れている音がします。」



真希がゆっくりと言った。


そんな真希の言葉を聞いて、要は小さく頷いた。



「目を閉じないと、分からない事もある」



見えていたとき


風の音をゆっくり聞いたことがあっただろうか?


この世はたくさんの音に溢れてる。


目から情報を一切排除して他の感覚に神経を使うと、全く気にしたことのない音がたくさん聞こえてくる。


そこには新しい世界があるのだ──




「確かに……」


真希は答えた。



「視覚のない世界は欠如の世界じゃありません。」


歯がゆく思ったことは何度もある。


もし見えていたら、と考えなかった訳じゃない。



でも、見ない方が、 "見える"時があるのだ…



「その言葉、何だか素敵です…」



真希の言葉に、要は頬を紅らめた。



「そう言われると何だか恥ずかしい…」


別にかっこつけたつもりはなかったが、振り返ってみると少々ポエムのようになってしまったなと、要は照れ隠しに髪を触った。
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