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近くて遠い
第21章 近くて遠い
「そんな境遇で前向きでいられるなんて…」



やはり、聞けば聞くほどあの時の少女の声に似ている。


まさか、あの時のみすぼらしい格好をした少女が、社長の傍にいるはずなど有り得ないのに…


それでも要は高鳴る自身の鼓動を心地よく感じていた。



「もちろん、嫌になるときもありますよ。会社じゃもうただの相談役だ。みんなこんな僕がいたら邪魔に感じてしまうだろうし…。
今日も、お詫びと言いながら、少し会社から逃げてきたような部分もあります。」



そう言って要は自嘲気味に笑った。


会社に戻った時はみんなとても優しかった。


それは今も変わらない。



でも、

やはり、みんながひどく気を使っているのが分かる。

腫れ物に触るように、自分と接する。


今まで通りの仕事は出来ないのはもちろん、ほかの仕事だって出来やしない。


あるのは数年で培った経験のみ。


秘書を引き継ごうとする酒田にそれを伝えるくらいしか自分は役に立たない。



いつかは辞めることになるだろう。


それを考えると、とても辛いのは確かだ…



でも…



「頑張ろうって思わせてくれるような…そういう人に出会ったから…頑張れるんですかね。」



要はまたあの日の少女を思い浮かべていた。


みすぼらしい格好で傘もささずに立っていた彼女は、どん底でさまよっていても、力強くて美しかった…


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