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近くて遠い
第25章 符合
───────…


どうしたらいいのだろう。


何か言葉を発しなくては、と思うのだけれど、あまりにも衝撃が強くて、言葉を発する所か、身体が震えていうことを効かなくなっていた。



忘れられていなかった…



それどころか、要さんは私を想ってくれていた…




それは堪らなく嬉しいはずなのに、何か言い様のない気持ちが自分を邪魔して、自分がその日の少女だと言うことが出来ない──


脳裏に今朝の光瑠さんの恐ろしい顔が浮かんで、息がつまった。


「大丈夫ですか?具合でも?」


あんまり黙っているから、要さんはとても心配そうな顔を向ける。



「いえ……とても……とても……切ないと……そう思って…」



「切ない……ですかね…?確かにもどかしいですけど…きっと僕のことなんか忘れているかも知れないのに、本当にバカらしいですよね。」



「忘れてなんかっ…!」



思わず強めてしまった言葉に要さんがビクッと身体を震わせた。



「あ……ごめんなさい…つい……」



そんな私を見て、要さんは優しく笑う。



「本当に優しいですね、真希さんて。」



やめて…そんなこと言わないで…



要さん──



私はここに──



ここにいます……





「あの、私…」



「有川社長と真希さん、やっぱりお似合いだと僕は思います。」




ズキッ──胸が痛んで、名乗ろうとしたのを寸前で私は止めた。



「なんで…」



なんでそんな事を…



「社長も何だかんだ言って優しい方ですし…、真希さんは絶対幸せになれます。」





そうだ。

私は光瑠さんの婚約者。




名乗って何の意味がある?

要さんの気持ちを知った今、私もあなたに一目惚れしました、と…


それを伝えて、一体何かこの状況によい結果をもたらすだろうか…?





────────どこにも…行かないでくれ……




光瑠さんの声が頭に響く。



裏切れない。

愛の言葉がなくとも信じると…結婚すると決めたのは私自身。




「………ありがとうございます。」



だから私は、


名乗ることをやめて、


要さんの言葉に、静かにお礼を言った。

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