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近くて遠い
第26章 糸の綻び
「………厳しい事を言うようですが──」



「うっ……ふぅっ…」



視界がぼやけたままで


もう何も見えない。




聞きたくないから、




耳も塞いでしまいたい。




「……覚悟しておいた方が、よろしいです。」



「嫌だっ……いやっ…」



覚悟?バカじゃないの?


そんなこと……


「できるわけないっ……」


私はそう言ってベッドに顔を埋めると、握っていた手を強めた。



お母さんの匂いはしない。

するのはツンと鼻を刺激する、薬品の匂いだけ…



「真希様…しばらくお母様は安静にしなくては…」



ベッドに埋まる私の肩を愛花ちゃんが持ち上げる。



「いやっ…」


私は抵抗してその手を振り切った。


離れない。
離れたくない──


「お母さん……」


トントンとお医者さんが私の肩を叩く。



「彼女の言う通りです。ここにいらしたところで今はお母様の負担になってしまう…それにあなたも身が持ちません…」



その言葉を聞いて、私は脱力した。



なんて無力なんだろう。
目の前でお母さんは苦しんでいるのに、何も出来ないなんて…


「真希様、お部屋に行きましょう…」


優しく差し出された愛花ちゃんの手をすがるようにして私は掴んだ。


「目が覚めましたらお伝えしますので。」


お医者さんが背後で言ったのに、力なく頷いた。



「ご主人様にご連絡して頂くよう古畑さんに、言いますね。」


部屋を出る直前で愛花ちゃんが言った。


光瑠さん──


その時思い浮かんだのは、寝不足の疲れた顔と、朝突然見せた恐い顔だった。


パリは3日後…


迷惑は掛けられない…



「いいえ…。言わないで…」



「ですが…」



「お願い……迷惑は掛けたくないの」



本当は優しく抱き締めてほしい。


あの胸に今すぐにでも飛び付きたい…


「分かりました…」


愛花ちゃんはそう返事をすると、私を支えながらゆっくり部屋を出た。




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