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近くて遠い
第26章 糸の綻び
───────…

いつもより帰りが遅くなったにも関わらず、屋敷に戻るとすぐに出迎えた古畑の姿に光瑠は目を丸くした。



「おかえりなさいませ。」

「あぁ…」


自分の時計が狂っているのだろうかと思い、入り口の大きな懐中時計を見た。


短針は2と3の間にいる。

やはりずれていない。



「光瑠様…」



不思議に思った光瑠が古畑に荷物を預けると、古畑はそれを受け取って静かに声を発した。


何かがおかしい──


「なんだ」



光瑠は勘がいい。

どこか古畑が纏う雰囲気に違和感を覚えながら、言葉を返した。


「実は今日……」


古畑は今日起こったことを丁寧に主人に伝えた。


それを最初は黙って聞いていた光瑠の顔が、古畑の話が聞き終わると険しくなる。



「何故もっと早く知らせなかったっ…!!」



真希の母の容態の急変を今、知らされた光瑠は目の前の老人にきつく迫った。



「まっ、真希様が…光瑠様に迷惑を掛けたくないと…そう申されまして…」

狼狽える古畑の言葉に光瑠は舌打ちをすると、何も言わずに自分の寝室へと向かおうとした。



「光瑠様!」


そんな光瑠を古畑が止めた。




「真希様はようやくお休みになったところですので、今日は…」


古畑の言葉に朝、夢にうなされていた真希の顔が浮かんだ。


やっと眠ったのに、自分のせいで起こしてしまう…


もっと早く仕事を終わらせれば良かった。


少しでも、屋敷に戻る時間はあったはず…


後悔の念が激しく光瑠を襲った。



光瑠はギリッと音がなるほど強く奥歯を噛み締めた。


きっと心細くて泣いたに違いない…


自分の身は売らないと、強く凄んだ真希が意図も簡単に契約に承諾したのは自分が真希の母を切り札にしたからだ──



それくらい、真希にとって母は大切な存在なのは光瑠も分かっていた。


「分かった。今日は…別の部屋で寝る。」




「……ご用意は出来ています。」


光瑠は返事もせずに、別の部屋で身体を休めた。
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