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近くて遠い
第26章 糸の綻び
上げた足の下を見ると、小さな車のおもちゃが見事につぶれて変形していた。



「ひかるが壊したぁあーー!!」


身体がぶっ飛びそうなほどの声に光瑠は目をギュッと瞑った。



寝不足の光瑠にとって子どもの高い声は凶器にしか感じない。



「ふぇっ……うっ…」



微かに聞こえた泣き始めの声に、光瑠はギョッとして隼人を見た。



真希によく似た瞳にじわじわと涙を溜めて、今にもそれが零れそうである。



まずい……


ここで大声を出されたら、間違いなく自分は倒れる。


「うううっ…」



「わっ、悪かった!!すまないっ!何個でも新しいのを買ってやるから…頼むから泣くなっ…」



身の危険を感じた光瑠は隼人の傍に掛けよって、慌ててそう言った。



「何個でもっ!?」


「うっ…」


泣き止んだはいいものの、光瑠の言葉に反応した隼人はあろうことか、光瑠の耳元で叫んだ。



「頼む……静かに話してくれ…」



「何個でもって言ったっ!?」



光瑠の言葉に、隼人はヒソヒソ声に変えて、光瑠に抱き着いた。


その反動で光瑠はよろめく。


「あぁ、言った。だから許せ。」



「うん!!」



キラキラとした隼人の顔を見て、光瑠は胸をなで下ろすと、また力なくフラフラと立ち上がって仕事にむかった。


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