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近くて遠い
第26章 糸の綻び
────────…

お母さんの体調が急変してから2日。

ついに光瑠さんとも顔を合わせぬままパリ出張を明日に控えた日。


私は重たい瞼を懸命に開けながら、ゆっくりと目を開いたお母さんを見つめた。



「ま……き…」



「お母さんっ…」



私は伸ばされた細い腕の中に飛び込んだ。



「具合は……具合はどう…っ?」



お母さんの方を見るとゆっくりと首を振って頷いていた。



「ちょっと……身体が…重いか…な…」



たどたどしく、お母さんはいうと、震えながら手を伸ばして私の頬を触った。



「お母さん…」


私はその手を掴んで頬擦りをした。



「ずいぶん……目がはれてる……」


ピッ──ピッ──と機械の音が響く中、お母さんはゆっくりとまばたきをしながら言った。



「……お母さん、結婚式まであとちょっとだから、しっかりして。」



光瑠さんがパリから帰ってきたら、結婚式するから…


「そうねぇ……」



お母さんは目を細めて笑うと、苦しそうに大きく息をした。



「私、幸せになるから。光瑠さんと…」


幸せに…



「はぁ…はぁ…」



「お母さんっ!?」



荒くなる息を聞いて、傍にいたお医者さんが慌て出す。


「もう、休まなくては…真希様、薬を打ちますので今日はこれで…」


私はしばらく茫然と立ち尽くしたあと、薬を打たれて落ち着いたお母さんを見てから、ゆっくりと部屋を出た。
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