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近くて遠い
第30章 三つの想い
「……かしこまりました」


そう言って去っていった古畑の背中を光瑠はぼんやりと眺めた。


いくら物を壊しても、足りない。

もう全てを破壊してしまいたい。



全部…




無かった事にしたい…




激しい胸の痛みが光瑠の破壊願望を助長させる。


自分の母が愛人と出ていったという話を真希は知っているはずだ。


なのに……




触らないで、と自分を拒否したあと、目の前で要の手を取った真希の姿が光瑠は忘れられなかった。



また、それをはっきりと裏切りだと言えないのが、さらに光瑠を苦しめているのかもしれない。




─────あなたは卑怯だ…真希さんの優しい心に漬け込んで…



その要の言葉に何か間違いがあるだろうか?


自分を欲しがらない真希を、母を切り札に金で買ったのは光瑠自身だ。



分かっている。


分かっているからこそ


怒りと悲しみのやり場がない。





──────きっと恋に落ちるのは一瞬のことで…だから、10分もかからないんじゃないかと…



──────お蔭で恋に落ちました…



自分はあの二人の邪魔をしていた…?



光瑠は運ばれた酒を乱暴に飲み干した。



入り込めない。


自分は汚すぎる…



だが、あの夜の街で光瑠は真希に出会ってしまった。


胸の疼きを抑えることが出来なかった…


欲しくて仕方がなかった。
だから後の事も考えず無理に、傍に置いたのだ。


初めは、それだけで良かったのだが、気付いたらどんどん真希にのめり込んでいって、心までも欲しいと思うようになってしまった。



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