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近くて遠い
第10章 偽りと有川邸
胸まで伸びた髪を掻き分けて、うなじを舌が這う…



「あぁ……」




クルリと身体の向きを変えられると有川様は少しかがんで私に唇を近付けた。


「やっ……」


キスされる…



もう後数ミリのところで有川様が笑った。



「お前に拒否権はない。分かっているはずだ」



柔らかい髪が私の頬をくすぐる。


そうだ…


私は買われた身



意志はあってないようなもの…。



「そんな顔をしてもそそるだけだ…」


「んん…ふ……」



後頭部を大きな手で支えられ、奥深くまで舌が入ってくる。



もう何度かされているのに、全く慣れることのない身体。

こんな日々が毎日続くの……?



有川様の気紛れに翻弄されて…


せめてそこに愛があったら何か変わりそうなのに、


繋ぎ止めているのは、
三千万と契約…



私はただのゲームの駒。




その事実が私を苦しめる。


辛くても、もう彼にすがって生きるしかない…。



「泣くほど嫌か…」



知らぬ間に流れていた涙を有川様が親指で拭った。



「いっ、いえ………」



必死に止めようとすればするほど流れる私の涙を見て有川様の顔が歪みだした。



「もういい!腹の立つ奴だ!」



そういうと有川様は私を強く引き離した。



「痛っ…」


床に身体が投げ出されて痛みがはしった。


早々に怒らせてしまった。

私は洋服で溜まった涙を拭うと、有川様を見上げた。


「すみません…」



有川様は唇を噛み締め、乱れた髪から鋭く光る眼差しで私を見下ろした。


彼の心が読めない。


彼は一体私に何を望んでいるのだろうか…



「お前は俺のものだ」



冷たく放たれた言葉に、胸が苦しくなる。



「分かっています…」


有川様は窓の外を眺めるとチッと舌打ちをした。



理由の分からない怒りに戸惑いを覚えながら、私は身体を起こして立ち上がった。


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