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不良の彼は 甘くて強引
第11章 ベンチ

「…本当に、誰のためにある法律なのかわからなくなります」
翔もまた、その記事を読みながら難しい顔をしていた。
「弱い立場の人を守りたいのに…っ」
柚子は普段から抱えていた思いを
翔の前で吐き出していた。
「──…」
翔は記事を読み終わると彼女の方に向き直った。
「俺は、それは違うと思うな…柚子ちゃん」
「え?」
突然の返しに驚く。
「これは住民と大企業の争いじゃない。大企業の中身だって、一人一人の人間なんだよ。
会社に不利益が出れば、クビを切られるのはその人達だ。だから裁判官は住民の生活と業務員の生活……両方を天秤にかけないといけない」
「──…」
「原子力の安全神話が崩れてなお、それを補う雇用も電力も…まだ、日本にはない」
「……っ」
「…何処にも正確はない、それでも判決を下す…
その " 責任 " が、彼等にはある」
何も返す言葉がでない柚子に翔は付け加えた。
「…難しい役割だね」
いつだったろう
匠さんに《正義面した人間》と言われた時のことをふと思い出した。
「ごめん、いきなり……」
三上先輩は謝ったけど
ああ
本当にその通りだわ
わたしの考えは、表面的なところまでにしか及んでいなかったということね。
「謝らないで下さい、わたし…今の言葉で、とても勉強になりました」
それに気付かせてくれた
先輩に感謝しないと。
そんな柚子を見て翔はほっとした様子で新聞を読み進めた。
柚子も参考書を広げ勉強を始める。
..........
無言でベンチに腰掛ける二人。
それは実に、温かな光景。
ベンチに木陰を作っている木々たちは、まるで時間が過ぎるのを惜しむように…その葉をさわさわと揺らしていた。

