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不良の彼は 甘くて強引
第12章 浴衣祭り

初めて来た他学部の講義棟。

美佳が匠を捜しているのは明らかだった。


「美佳ちゃん…本当に無理だよ、誘うなんて」


もう美佳の柚子を引っ張る手は離されていたが、何となく、ここで引き返すことは許されていない気がする。


まぁ、心配しなくても
絶対に見つかりっこない

柚子はそこに希望を抱いた。



なのに…


「あ、いたかも…」


片っ端から覗いていった講義室のひとつにそれらしき影。

どんな内容なのかしらないが、椅子に腰掛けた彼は周りを取り囲む数人の男たちと話をしている。


「会話してる…」

少し意外。

会話というより話しかけてくるのを適当にあしらっているだけのようにも見えるが、それでも想像できない光景だった。




ふと──

彼の目が宙をおよぎ出入り口の彼女の姿を捉えた。


「……!!」

「あ、先輩こっちに気付いたわ、後は頑張りなさいよ」

「そ、そんなぁ」


悪魔の前に柚子を差し出しておいて美佳はひとり立ち去ってしまった。


席を立った匠は柚子のもとへ近づいてくる。




「初めてだな、お前の方から来るのは」


ドアに手をかけ、マスクで隠された柚子の顔を覗き込む。


「何か用か」

「用と、いいますか…」


周りの視線が痛い…


ええい、どうにでもなれ



「浴衣はお持ちですか?」

「ん?」



どういう意味だ。

浴衣…?まさかこいつ



「お前…俺に祭りに来いって言ってるのか?」


意外すぎて、匠は思わず声を張り上げてしまった。



「……ッ!! やっぱり何でもないです!!」


真っ赤になった柚子は発言を取り消すとその場から全速力で立ち去る。



残された匠。


いったい何なんだ

今のは…。





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