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不良の彼は 甘くて強引
第16章 海

「…んむむ」

口をふさいだ手をどけてくれるよう柚子は小さく唸った。

匠は余裕そうな笑みを浮かべたまま、身体の拘束はそのままに口だけを解放した。



「また、急に…」

「電話に出なかったのはお前の方だ」

柚子を強く抱き寄せたまま
彼女の横に腰掛ける。



「あれ?…気づかなかったのかな…」

「そういう事だな」

「…ごめんなさい」

会ってまだものの一分もたたないうちに、わたしは彼に謝っていた。



それにしても…

「あの、そろそろ…」

人目が気になる…。


こんな明るいうちから堂々と抱き合ったカップルに、道行く人がみな注目していた。


「そろそろ何だ、…キスするか?」

「…!!…違います!」


本気で怒りだしそうな柚子を、匠はほいっと解放した。




「──何の曲だ?」


立ち上がって匠は、抱きついた拍子に落ちた麦わら帽子を拾い上げ、彼女に渡す。


「ピアノですよ、さお──…」

「…ん?」

「さ、紗織…さん、の…」

「……!!」


匠は最後まで聞かずに、さっさと歩き出した。

慌てて柚子が追いかける。




匠の服装は、いつも通りの白シャツにジーンズ。

ただジーンズは所々にダメージが入れられたデザインで、着崩したシャツの胸元には、細めのネックレスがきらりと光っている。


──ちょい悪風?


格好いい…よ…。



匠にはバレないように、自分の照れ顔を隠して歩いた。



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