この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
不良の彼は 甘くて強引
第16章 海
「…んむむ」
口をふさいだ手をどけてくれるよう柚子は小さく唸った。
匠は余裕そうな笑みを浮かべたまま、身体の拘束はそのままに口だけを解放した。
「また、急に…」
「電話に出なかったのはお前の方だ」
柚子を強く抱き寄せたまま
彼女の横に腰掛ける。
「あれ?…気づかなかったのかな…」
「そういう事だな」
「…ごめんなさい」
会ってまだものの一分もたたないうちに、わたしは彼に謝っていた。
それにしても…
「あの、そろそろ…」
人目が気になる…。
こんな明るいうちから堂々と抱き合ったカップルに、道行く人がみな注目していた。
「そろそろ何だ、…キスするか?」
「…!!…違います!」
本気で怒りだしそうな柚子を、匠はほいっと解放した。
「──何の曲だ?」
立ち上がって匠は、抱きついた拍子に落ちた麦わら帽子を拾い上げ、彼女に渡す。
「ピアノですよ、さお──…」
「…ん?」
「さ、紗織…さん、の…」
「……!!」
匠は最後まで聞かずに、さっさと歩き出した。
慌てて柚子が追いかける。
匠の服装は、いつも通りの白シャツにジーンズ。
ただジーンズは所々にダメージが入れられたデザインで、着崩したシャツの胸元には、細めのネックレスがきらりと光っている。
──ちょい悪風?
格好いい…よ…。
匠にはバレないように、自分の照れ顔を隠して歩いた。