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不良の彼は 甘くて強引
第19章 異変
“匠さんにもこういうとこを見習ってほしいわ”
匠の上から目線の俺様な態度をふと思い出して少しふくれた柚子に、翔は気が付かない。
「酸化還元…、それにしても懐かしい分野だ」
《必勝!〇〇大の文系化学》
なんとも微妙なネーミングセンスのその問題集にパラパラと目を通しながら、ずれた眼鏡をかけ直す。
「…そういえば先輩って、普段眼鏡でしたっけ」
見慣れぬ翔の黒縁メガネに、柚子は思わず問いかけた。
「まぁ…、"だて"だよね」
「伊達メガネ…!」
なんだか意外。
「眼だけは昔からいいんだ。だからずっと眼鏡男子に憧れたなぁ~」
翔は少しおどけた声で笑ってみせる。
こんなにスマートで背が高くて頭良くて優しくて、美形だし…
そのうえ黒縁メガネなんて
女の子達が追い求める理想の男性ね……。
あまりの彼の完璧ぶりに溜め息さえでてきそうな柚子。
「先輩って、彼女とかいないんですか?」
柚子のその質問は、翔にとっては唐突すぎた。
「…!?…いないよ」
「えっ!? どうして…?」
彼女がいないと言う男に "どうして"とは…
端から見れば可笑しな返答。
「何故って言われてもねぇ」
真剣な顔つきで切実に聞いてくる彼女に、翔は苦笑いを返すしかない。