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不良の彼は 甘くて強引
第20章 すれ違いは…
《──…帰れ》
「…!!」
ふと匠のことを考えていた彼女の耳に、あの時の彼の言葉がこだまする。
「…あ」
黙れとか生意気だとか…今まで散々言われてきたけれど
あの時の彼の背中ほど冷たいものはなかった。
機嫌をそこねたことも何度かあった。
そんな時には
首を締められたり、壁に押し付けられたり、強引にキスをされたり、何もせず許されたこともあったけれど…
今回は
突き放された……。
「……ふ…ッ…っ」
気付いた時には、一度引いた筈の涙が
翔のベッドで横たわる彼女の顔を濡らしていた。
「……ッ……!…」
声を抑え、手で顔を覆い、とめどなく流れ出るそれを堪えようとする。
「……」
翔は本から目を離し柚子のヒクつく背中をじっと見ていた。
彼は黙ったまま本を置き枕元のランプを消す。
彼女側の手を、そっと、その震える頭に添えた。
「……ふッ…!……グスッ…──…!」
「…あまり酷く涙を流せば、目が腫れてしまうよ」
物音ひとつしない真っ暗な部屋で、柚子の嗚咽とともに翔の声が静かに響く。
流石に…ベッドの中で抱き締めるのはNGだ。
頼むから
泣かないでくれ…。
彼女の嗚咽が寝息に変わるまでの長い間──
翔は、自分以外の男を想って涙を流す柚子を
「──…」
静かに見守っていた。