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不良の彼は 甘くて強引
第20章 すれ違いは…
目の前の翔を見る匠の顔に
もう皮肉な笑みは浮かんでいない。
「──…」
彼は何も言葉を発することなく、翔が口を開くのを待っているようであった。
匠には若干背の足りない翔は、僅かに見上げるかたちで静かに彼を睨みつける。
「…これ以上、彼女の侮辱はやめてくれ…!!」
「…ふっ、面白いな。…ヒーローのご登場か」
暗い大学内…
静かに睨み合う二人の男。
柚子は周りの空気がピリピリと痛むような錯覚に陥った。
長い沈黙
痺れを切らした匠の身体が少しだけ後退し、その拳がゆっくりと構えられる。
「ダメ…!!」
翔の背後で、柚子の制止の声があがった。
ヒュッ
「匠さん!!!」
翔に向かって突き出された匠の右腕。
「……!?」
──それが翔の顔に当たることはなかった。
「…!!」
ツーーー…
鼻に当たる直前で止められた拳に、翔の額から冷や汗が一筋、頬を伝って流れ落ちる。
……ふっ
「…殴って欲しかったか」
凍り付くような低温ボイス。
翔の喉が唾を呑み込みゴクリと音を鳴らした。
「悪いがヒーローごっこに付き合う暇はない」
「……!」
「お前たちで勝手にやっていろ、苛々する…!」
腕を下ろした匠は、そう言い捨てると身を翻して二人に背を向ける。
柚子の方は見ないままに、最後に彼は続けた。
「また、あのメガネ男がお前に近寄ってくるようなことがあれば…──」
「…!!」
「…いや、何でもない…!」
匠は立ち去っていった。