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不良の彼は 甘くて強引
第20章 すれ違いは…
遠のく匠の影は暗闇にまぎれ、駐輪場の方へと角を曲がった。
「…なんでッ…!」
その場にへたりと膝をつき、柚子は泣き崩れる。
「……グスッ…っ…、…行かないで……!」
彼女は消え入りそうな声でひたすらに同じ言葉を呟いていた。
「ハァーー…」
匠の雰囲気に呑まれた翔は、一歩も動くことなくその場所で突っ立っている。
汗の滲んだ額を手で覆い、深く呼吸を整えた。
「──柚子ちゃん?」
「…行かないでッ…!」
「……」
彼の足元では、未だ沸き起こる感情を抑えられないでいる柚子が、誰もいない方向へ途切れぬ懇願を続けていた。
翔も彼女の横にひざまずき、華奢な肩を守るように手を添える。
「大丈夫かい…?」
「…ふッ……グスッ……!」
翔の呼びかけには応じず
まるで子どものようなその泣き方…。
「…市ノ瀬は、君に何をしてたの……?」
なるべく彼女を興奮させぬよう
穏やかに問いかける。
「匠さんは……!!」
柚子は泣きはらす顔を上げて、翔に真っ直ぐ向き合った。
「匠さんは…わたしを助けてくれたのッ…本当です!………助けて…くれたの…!」
彼はわたしを助けたのだ
彼女は翔に必死に訴える。
「助けて…ッ…グスッ……助けてくれたの…!…信じて…!…匠さんは……」
「…わかった…、もう、わかったから……!!」
翔は泣き止まない彼女を抱き締める。
さすがの彼でも…こうする他に柚子を慰める手段がわからなかった。
翔の瞳が困ったように宙を泳ぎ、唇を固く結んで狼狽する。
その彼の美しい顔は、自分まで泣き出してしまいそうなほどに歪んでいた。
「わかったから……!!」
ただただ、その腕に力を込めるしかなかった。