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不良の彼は 甘くて強引
第29章 天秤にかける



「──そんな " 悲しい顔 " で笑ってくれるなよ…」



「……─!」



驚いた柚子は、まだ乾ききらず目尻の端に溜まっていた その涙を急いで拭った。


自分がいったい…どんな表情をしていたのかは彼女にはわからなかった。


何故か叱られたかのように大人しく俯いている柚子を見て、翔はそんな彼女のおでこを指でピンとはじいた。



「今度は…親に叱られた子供のようになっている」


言いながら彼は、先ほどの…匠のジャケットを返したくないと駄々をこねる柚子の声を思い出す。



「…柚子ちゃん」

「……?」


神妙さを帯びた翔の声に
柚子は恐る恐る顔をあげた。




「君の気持ちは決まったのかい?」


「…わたし…っ…!?」


「市ノ瀬と…どうなりたいんだ」


市ノ瀬と一緒にいたいのかどうか

俺は…君にどこまで強引になることを許されるのかが…、それによって変わってしまう。



「市ノ瀬と終わる気なら…、俺はまた改めて君に伝えなければならない想いがある」


そう言って柚子を覗き込んだ翔の目が、真っ直ぐに彼女をとらえる。

柚子は…目の前の彼から目をそらして、キョロキョロとせわしなく動く目で廊下の壁に顔を向けていた。



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