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第35章 エピローグ

「知り合いのピアニストの方が、日本で公演があるからとご招待して下さって…、美佳ちゃんと行ってきたんです」


リサイタルというものに行ったのは、柚子には初めての経験だった。

舞台やミュージカルは数回あったが…純粋に音楽を聴きに行くことはなかったのだ。



「とても素敵な時間でしたよ。やっぱりCD音源から聴くのとは全然違って…」


「……」


「…演奏が始まった途端に、ホール全体の雰囲気が引き込まれていく感じでした」


「…へぇ」


「ピアノ独奏の他に、バイオリンとのコラボもあったりして…──」




…楽しそうに話す彼女に


それを聞く男の目も、柔らかく細まる。




「──…なんだ、それなら俺も行きたかったな」


「先輩は…リサイタルに行ったことあります？」


「ピアノだけってのは…まだないよ」



そう言って微笑んだ翔は、カップを置いて脚を組み直した。