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嵐の夜に痕をつけられて
第5章 亮太の執着
「はい、立川です」

「大丈夫?」

「え?」

「大丈夫だった?」

「えっと、何のことでしょうか……?」

「対向、見て」


携帯を耳に当てながら、道路を挟んだ反対側の歩道を見るとそこに相沢さんがいた。
相沢さんも携帯を耳に当てながら真っ直ぐこちらを見て立っている。


「何もされなかった?」

「……はい、大丈夫です」


本当は大丈夫じゃないです、ものすごく怖かったです、と言いたいのを堪えて相沢さんから目を離す。


「本当は?」

「……」


この聞き返し方はこの人の癖だ。
新人研修時代よくこの台詞で追い詰められた。

妙な誤魔化しは効かない、納得出来る説明をしろというプレッシャーを毎日かけられて、新人の頃の私は家に帰ってよく泣いたものだ。

でも今は仕事とは関係ない。
この人に言うべき事じゃない。
私と亮太のことはこの人には関係のないことなんだから。


「ちょっとそこ動くなよ」

「えっ」


質問に答えない私にそう言うと、電話は一方的に切られてしまった。


え? 動くな? ここを? まさかここに来るの?


対向車線の歩道を見るとそこにはすでに相沢さんの姿はなく、少し先の横断歩道を小走りに渡っていた。


え、うそ。本当にこっちに来てる! どうしよう!


今更だけどやっぱりどんな顔をすればいいのか分からない。
昨日もそうだけど、今もなかなか気まずいシチュエーションだ。

どうしてこの人はこんなにタイミングが悪いのか。
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