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嵐の夜に痕をつけられて
第5章 亮太の執着
そうこうしていると相沢さんはもう私の目の前に来ていた。


「大丈夫か」


もう一度同じことを聞かれた。


「大丈夫ですよ、何もされてません」


笑って答える私を相沢さんは不機嫌そうに見る。


「そんな泣きそうな顔して大丈夫ですって言われてもなぁ、説得力がない」

「えっ……」

「顔が引きつってるぞ。
 嘘ならもうちょっと上手に吐け」


そう言われてもう何も言えなくなってしまった。
だめだ、この人の前では誤魔化せない。

新人時代に散々指導されたのだ。
新人の間は小さなミスもただの連絡も全て報告しろ、報告される方が次の指示をしやすいように事実を簡潔に報告しろ……。


「田上に何言われたの?」


小さいため息をついて、覚悟を決める。


「……私の家に残ってる自分の荷物を今から取りに行くから、ついでにキスマークをつけた相手とどんなセックスをしてるのか俺に教えろよ、と言われました」

「それで?」

「でも仕事で呼ばれたみたいで戻って行きました。
 それだけです。何もされてません」


私は相沢さんの顔を見ずに淡々と説明する。


「もう帰ります。
 ご心配おかけしてすみませんでした。
 失礼します」


聞かれたことには答えた。
嘘はついていない。誇張もしていない。
これでいいだろう。

軽く会釈して相沢さんの横を通り過ぎようとしたときだった。


「立川、家まで送る。帰るぞ」


そう言って相沢さんは私の先を歩き出した。
それ以上は何も聞かれず、私も何も言えなくて、相沢さんの後ろを黙ってついて行った。
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