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私でよろしいのですか
第1章 私でよろしいのですか
クラウスは満足げに唇を離すと、ハンナは朦朧とした瞳を開いた。
息が乱れ、胸を上下させて続きを懇願するような顔は普段のハンナとはかけ離れている。

仕事中のハンナはほとんど笑わない。

栗色の髪を綺麗に一つにまとめ、大きな深緑の瞳と少し幼さを残した顔は、微笑み方を忘れたようにも見える。

もしも同じ年頃の貴族の娘だったならば、やれ観劇だお茶会だと着飾って出掛け、パーティーでは気に入った男をその瞳で誘っていただろうに。


 ――お前も貴族の娘のはずなんだがな――


蒸気するハンナの頬を撫でながら心の中で呟く。
それなりの爵位を持つ父親が、気まぐれに手をつけて孕ませたのが当時の侍女――ハンナの母だった。

正妻の怒りを買った母親はハンナを身籠ったまま屋敷を追い出された。
その母もハンナが十歳のときに病で死に、体面を気にした父親が素性を明かさないことを条件にメイドとしての人生を与えたのだ。

メイドとはいえ、屋敷の中にいる以上は正妻からすれば目障りな存在に変わりない。
人手を増やそうと思っている、と世間話の中でハンナの父親にこぼすとすぐに、若いメイドを一人譲ろうと言われた。


 ――私でよろしいのですか――


新しい主人に仕えるように、と父親からクラウスを紹介されたとき、ハンナはそう答えた。

そしてこの娘は今、自分も母親と同じように主人の戯れで抱かれていると思っている。
どれだけ啼かせて身体を開いてもハンナがクラウスに微笑んだことはない。
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