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新解釈 紺屋の女房
第3章 久蔵と花魁の出会い
女房のお玉が腹に差し込みがあるといって
草案先生に診てもらってから半月ほど過ぎた。
草案先生の治療が良かったのか、
診てもらった次の日からバリバリと働きだし
半月たった今も腹の具合が悪いとは
これっぽっちも口に出さなかった。
「旦那様、
まことご新造(ごしんぞう=奥さん)さまは
働き者の良い女将でございますなあ」
客の相手をてきぱきとこなすお玉を見て
番頭の佐平はしきりに感心した。
「誠に良い女を妻にめとったものだと
私も鼻が高い。ただ…」
言いよどむ旦那の顔が曇った。
「ただ…なんでございましょう?」
その先が気になって、番頭の佐平は続きを促した。
「うむ…ただ、なんというかお玉の畑が悪いのか
はたまた私の子種が悪いのか
一向に赤子(ややこ)を授かることができんのだ」
四十路(よそじ=40代)の吉兵衛は
先祖代々続いてきた染物屋の「紺屋」が
自分の代で暖簾(のれん)を下ろすことになろうと嘆いた。
「それなら一案がございます」
番頭の佐平は
旦那の吉兵衛の耳元でヒソヒソと話し始めた。
「養子を頂けばよいのです」
それならば吉兵衛も考えていた事であった。
ただ、人様の子を頂戴するにしても
それなりの礼金が必要だし、
後々に本来の父母が金の無心にこられては困ると
二の足を踏んでいたのだ。
「良い子が身近におるではないですか」
はて?どういうことかと
吉兵衛は佐平の意図を読めずにいた。
「久蔵でございますよ。
あいつはほんとに働き者だ
私はね、あいつを仕込めば
金の卵になると目をつけているんですよ」
佐平は、久蔵がこの店に買われて来てからというもの
孫のように可愛がっていた。
「佐平、お前が申すのなら間違いはなかろう。
今夜にでもお玉に相談してみるとしよう」
番頭の佐平の案に吉兵衛は乗ってみることにした。